販売促進に効果的な施策の一つとして、DM(ダイレクトメール)の発送が挙げられます。
その実施には制作費や印刷費、発送費がかかりますが、これらを「販売促進費」と「広告宣伝費」のどちらで処理すればよいのか悩むことはないでしょうか。
あるいは交際費を販売促進費や広告宣伝費と混同してしまう場合もあるでしょう。
そこでDMにかかる費用を正しく処理できるように、仕訳の仕方や各勘定科目の違いをご紹介します。
この記事のポイントまとめ
- DMは広告宣伝費に該当するが、販売促進費として処理しても問題ない
- 販売促進費は、ユーザーに対して直接的にアプローチするための費用
- 広告宣伝費は、ユーザーに対して間接的にアプローチするための費用
- 交際費は、特定の相手に対して営業活動を行うための費用
はじめに
決算書を作成するためには、取引の内容を勘定科目に分類する必要があります。
それにはさまざまな項目があるため、販売促進のための支出がどの勘定科目に該当するのか迷うことも多いのではないでしょうか。
特にDMにかかる費用は、内容や送付先の特性によって勘定科目が異なるケースがあります。正しく仕訳を行うためには、どの費用がどの勘定科目に当てはまるのかを理解しておく必要があるでしょう。
次項からは、DMにかかる費用の仕訳や、勘定科目における「販売促進費・広告宣伝費・交際費」の違いなどを解説します。
おさらい:「販売促進費」とは?
DMと勘定科目の関係を見る前に、まずは販売促進費の基本をおさらいしておきましょう。 販売促進費とは、自社の商品やサービスなどの販売を促進するためのプロモーションなどに用いる費用を指します。
費用を販売促進費として計上するためには、以下の3つが条件となります。
1.売上アップを目的として支出する費用であること
2.消費者や取引先にアプローチするために支出する費用であること
3.損金算入(経費計上)が可能な費用であること
2.の「消費者や取引先にアプローチする」とは、「消費者や取引先と直接的な関わりがある」という意味です。例えば、以下のような支出は販売促進費として処理できます。
- 試供品・サンプルの配布にかかる費用
- ノベルティグッズの制作費用
- 販売代理店への販売奨励金(リベート)
- キャンペーンの実施にかかる費用
- 実演販売や展示会の出品にかかる費用
- 販売手数料 など
ただし、販売促進のための費用といっても、支出の内容によっては広告宣伝費や交際費に該当する場合もあるため、仕訳のルールを理解しておく必要があります。
3.の損金算入とは、会計上では費用ではないものの、税務上は損金として扱うことです。この点において、固定資産や工具器具備品として資産計上する支出に関しては、販売促進費に含まれません。
DMは販売促進費?それとも広告宣伝費?
DMにかかる費用は販売促進費なのか、広告宣伝費なのかは、多くの経理担当者が悩みやすいポイントです。結論から言うと、通常のDMは広告宣伝費として処理するのが妥当だと考えられます。
販売促進費に該当するのは、上述のとおり「消費者や取引先に対して直接的にアプローチする費用」です。特定の人に対してサンプルを手渡すなど、直接的な関わりがあるのが特徴です。
一方で、広告宣伝費には「消費者や取引先に対して間接的にアプローチする費用」が当てはまります。ユーザーに対して商品を直接売り込むのではなく、宣伝広告を活用してアピールするというイメージです。
DMは任意のターゲットに対して、自社製品やサービスなどを宣伝するための郵送物です。
発送数の大小にかかわらず特定の個人に宛てることが原則ですが、宣伝広告の一手段でもあるため、広告宣伝費として処理するのが適切でしょう。
ただし、どのように仕訳をするかは、事業主の判断に委ねられることがあります。線引きがあいまいな部分もあるため、社内や取引先、税務署で混乱を招かないよう、きちんとルールを決めておくことが重要です。
DMに関わる諸費用の例
DMにかかる費用とひと口に言っても、支出先が一つとは限りません。DMを使った販売促進の施策にはさまざまな段階があり、各ステージに応じて費用が発生します。
以下の3つは、DMを活用した販売促進の施策を行う際にかかる費用の例です。
- 制作費
- 印刷費
- 発送費
前項では「DMにかかる費用は広告宣伝費として処理する」と説明しましたが、具体的な費用の内訳についてはどのように考えればいいのでしょうか。ここでは、DMに関わる3つの費用と仕訳の考え方について解説します。
制作費
販売促進の施策としてDMを用いる場合、実施に至るまでのさまざまな工程を外注することがあります。
DMの制作もその一つで、DM代行専門会社やデザイン会社、クラウドソーシングサービスなどがその代表例です。
DMの制作を外注した場合は、その形状やデザイン案の数、依頼部数などに応じた制作費が必要ですが、仕訳はどのように考えるべきなのでしょうか。
DM代行専門会社などに支払う制作費は、売上アップを図るための支出です。そのため、「販売促進を目的とした損金」として計上可能です。以下はDMの制作費として3万円を支払った場合の仕訳例です。
【DM制作費の仕訳の例】 (単位:円)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
広告宣伝費 | 30,000 | 普通預金(※) | 30,000 |
(※)現金で支払った場合は「現金」と記載
印刷費
DMを活用して販売促進を行う際は、作成したDMを印刷する工程が必要です。デザインの制作と印刷をまとめて依頼したり、自社でデザインしたDMの印刷のみを依頼したりする方法があります。
印刷を外注する場合の印刷費も、制作費のように広告宣伝費として仕訳をすることが可能です。印刷にかかる費用もプロモーションを行う側の負担で、売上アップのための損金として計上することが認められています。
DMの印刷費として6万円を支出した場合、以下のように仕訳をすると覚えておきましょう。
(単位:円)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
広告宣伝費 | 60,000 | 普通預金 (または現金) | 60,000 |
発送費
DMを制作・印刷したら、発送のステップに進みます。郵便料金を支払う場合、通常は「通信費」に振り分けられます。
例外として、DMは広告宣伝を目的としたものであることから、広告宣伝費として処理するのが一般的です。
ただし販売促進費としての計上や、金額が小さい場合は通信費に振り分けるケースもあります。
ダイレクトメールを発送するための支出が2万円の場合、仕訳の例は以下のとおりです。
(単位:円)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
広告宣伝費 | 20,000 | 普通預金 (または現金) | 20,000 |
DMが交際費になるケース・ならないケース
DMの内容によっては、広告宣伝費ではなく交際費として処理する場合もあります。
例えば、以下のケースでDMを送る際は、広告宣伝費と交際費のどちらに振り分けるべきなのでしょうか。
- 特定の取引先などへ送る「招待状」である場合
- モニターやアンケートへの謝礼を送る場合
- 一般消費者を対象としていない場合
広告宣伝費と交際費のどちらが適切か迷った際は、DMを送る目的を整理することが重要です。正しく仕訳ができるように、3つのケースと仕訳の考え方について理解しておきましょう。
特定の取引先などへ送る「招待状」である場合
交際費とは、特定の相手を対象とした営業活動などにかかる支出のことです。そのため、特定の取引先や仕入先などに向けて「招待状」を送る場合、広告宣伝費ではなく交際費として処理する必要があります。
参考として、招待状に関連する費用かつ交際費に該当するものを確認しておきましょう。
- 記念品代
- お土産代
- 取引先へ支給する車代 など
モニターやアンケートへの謝礼を送る場合
モニターテストやアンケートを実施した場合、参加者への謝礼をDMで送ることもあるでしょう。国税庁の公式サイトを確認すると、一般消費者に対するモニターやアンケートへの謝礼は広告宣伝費として処理すると定義されています。
「(7) 製造業者や卸売業者が、一般消費者に対して自己の製品や取扱商品に関してのモニターやアンケートを依頼した場合に、その謝礼として金品を交付するための費用」
引用:国税庁「No.5260 交際費等と広告宣伝費との区分」
なぜ交際費に該当しないのかというと、DMを送る目的が「情報提供を受けること」であるためです。謝礼(金品)を渡すために送っているものではないため、情報の提供料として広告宣伝費に振り分けられます。
一般消費者を対象としていない場合
広告宣伝費と交際費を区分する基準として、「一般消費者であるか」どうかがポイントとなります。一般消費者とは、消費生活において事業者ではない個人のことです。宣伝のための支出が一般消費者を対象としていない場合は、広告宣伝費に該当せず、交際費として処理します。
以下の業種の事業者が特定の相手を対象とする際は、一般消費者とみなされないため注意しましょう。
業種 | 対象 |
医薬品の製造業者・販売業者 | 医師・病院 |
建築材料の製造業者・販売業者 | 建設業者 |
化粧品の製造業者・販売業者 | 美容業者・理容業者 |
機械や工具の製造業者・販売業者 | 鉄工業者 |
農業用資材の製造業者・販売業者 | 農家 |
まとめ:販売促進費・広告宣伝費・交際費の違い
ここまで、DMにかかる費用と仕訳の考え方について見てきました。おさらいとして、販売促進費・広告宣伝費・交際費の違いを整理しておきましょう。
販売促進費と広告宣伝費は、どちらも「販売費および一般管理費」という勘定科目に該当します。広義では、広告宣伝費は販売促進費という枠の中に含まれるイメージです。
一般的には、ユーザーに直接的にアプローチするための支出は販売促進費、間接的にアプローチするための支出は広告宣伝費として扱われます。しかし、明確な区分や法的な基準が設けられているわけではないため、事業者によって仕訳の考え方が異なることもあります。
つまり、販売促進費と広告宣伝費のどちらで処理するかは、事業者の判断で決定しても問題ありません。その際は社内で明確なルールを定め、仕訳の仕方を統一することが重要です。
交際費も販売促進費や広告宣伝費と似た性質をもちますが、支出の目的に違いがあります。具体的には、「特定の相手への営業活動を目的とするもの」は交際費に該当します。
一方で、販売費及び一般管理費のうち広告宣伝費は「一般消費者への宣伝を目的とするもの」が当てはまると理解しておきましょう。