凸版(とっぱん)印刷とは版材に凹凸を付けて凸部分にインクを塗り、印刷用紙に転写するという印刷方法です。
身近な例では簡易な印鑑のゴム版などを想像するとわかりやすいでしょう。
本記事ではそんな凸版印刷について用途や特徴、また伝統的な活版印刷の活字についてもご紹介します。
この記事のポイントまとめ
- 凸版印刷とは、版材に凹凸を付けて凸部分にインクを塗り、そのインクを印刷用紙に転写するという印刷方法
- 凸版印刷の版式のなかでも代表的なものは、活字を使った活版印刷
- 「名刺」「段ボール箱」「賞状」など、さまざまなものに使われている
凸版印刷とは
数ある印刷方法のなかでもとくに長い歴史を持つといわれる凸版印刷。
基本的な仕組みは印鑑を押していくことと同じであるため、文字などを印刷するためには適しているものの、凸版印刷ではカラフルな表現をすることは苦手です。
凸版印刷の代表例「活版印刷」
凸版印刷は使用する素材などでさらに細かく形式が分かれますが、なかでも代表的なものが「活字(かつじ)」を使った「活版印刷(かっぱんいんさつ)」です。
活字とは印刷に用いる字形のことで、一般には金属製のものを指しています。
15世紀なかば頃にドイツの金細工師「ヨハネス・グーテンベルク」が発明した「グーテンベルクの活版印刷機」は、世界を変えたルネサンスの三大発明のひとつだとされています。
活版印刷は今でも名刺などを印刷する際に使われている印刷方法です。
ただしインクジェットプリントやレーザープリントなど他の印刷方法が普及するにしたがって、減少傾向にあります。
凸版印刷の用途
凸版印刷は前述のように「名刺」、または「段ボール箱」「賞状」「案内状」などに用いられるのが一般的です。
同じ凸版印刷のなかでもさらに細かい印刷方法の違いがあり、名刺は活版印刷を、段ボール箱の印刷にはフレキソ印刷を使うなど、用途に応じて使い分けられています。
凸版印刷のメリットとデメリット
凸版印刷にはメリットもデメリットもあるため、両面を理解しておきましょう。以下にそれぞれを解説します。
凸版印刷のメリット
凸版印刷のメリットは、以下のとおりです。
- 印刷工賃が比較的安い
- 画線部のエッジの印刷がシャープな仕上がりにできる
- コントラストの強い鮮明な印刷が得意
- 文字印刷に適している
- シャドウ部のディテール再現が得意
凸版印刷には、インクの付着量が多いことと版が凹凸で再現されること、印刷の際に適度な圧力がかかることなどの特徴があります。
その特徴から、力強さと活字の美しさなどのメリットがある印刷方法です。
凸版印刷のデメリット
一方で、凸版印刷のデメリットは、グラビア印刷などで色を再現するプロセスカラーの網点(あみてん)の表現が不得意で、細部の再現などには向かないことです。
一つの版で部分的にインクを塗り分けることは困難なため、写真などのグラデーションを表現することは苦手だといえます。
活版印刷の活字とは
そもそも活版印刷の活字(かつじ)とは、アルファベットや数字、記号などの1文字だけを造形した部品のことです。
活版印刷は凸部分にインクを付けて印刷用紙につける印鑑のような仕組みのため、活字一つひとつは基本的に1文字のみのスタンプのようになっています。
この部品を組み合わせることによって文章などの「版」を製作し印刷します。
活字の種類(金属活字や木活字)
活字の種類には金属活字だけではなく木製の「木活字」、泥土をゼラチンである膠(にかわ)で固めた「膠泥(こうでい)活字」などがあります。
ヨハネス・グーテンベルクが発明した活版印刷機では、鋳造しやすい鉛合金で作った鋳造活字が使われました。
実際にはこの発明の前に東アジアでも発明されていたといわれています。
しかし漢字を印字する場合には必要な活字が多く、アルファベットの活字は数が少なく高い生産性があったため、東洋ではなく西洋圏で急激に普及したようです。
まとめ
スタンプを想像するとわかりやすいように、シンプルな仕組みと長い歴史をもつ凸版印刷。
現在では上記の金属活字を使って新聞や書籍を刷ることはほぼないといえますが、印刷や編集の専門用語にはこれにちなんだ言葉が今も使われています。
例えば文字の間違いを表す「誤植」。
これは活字を一文字ずつ配置することを「植字」といったことから、そのミスを指す用語です。
また文面や紙面をレイアウトする作業を「組版」といったり、文章のまとまりを数段に分けることを「段組み」と表現したりしますが、これも紙面用の活字などをワンセットに揃えるのを「組む」といったことに由来しています。
また、活版印刷で作られた古い本も現役で出回っており、ページを指で撫でると特有のほのかな凹凸を感じられます。
図書館などでそうした本を見つけたら、印刷の歴史にも想いを馳せてみてはいかがでしょうか。