15世紀にグーテンベルクが活版印刷を発明しましたが、印刷という技法そのものはさらに古くから行われてきました。
活版による最初の製品が聖書だったため、これが世界初の印刷物と捉えられることがありますがそうではありません。
製作年代が判明している世界最古級の印刷物はなんと日本のもので、その名を「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」といいます。
1200年以上も前の奈良時代に作られた仏教経典の印刷物であり、その名の通り100万基の木製仏塔に収納して10の寺院に納められたものです。
本記事ではそんな百万塔陀羅尼について解説します。
この記事のポイントまとめ
- 百万塔陀羅尼とは天平時代に作成された印刷物
- 100万枚が奉納されたと伝わり、現在でも一部は残っている
- 印刷博物館などでは現物が展示されている
百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)とは
百万塔陀羅尼は764年(天平宝字8年)に称徳天皇によって作成が命じられたお経の印刷物で、木製の仏塔に収納されたものです。
戦乱の犠牲者の鎮魂、そして国の安寧を祈って寺院に奉納されました。
完成にはおよそ6年もの歳月を要した一大国家事業であり、このことは平安時代初期の史書である『続日本紀(しょくにほんぎ)』にも記録されています。
百万塔陀羅尼の構造は? 納められたのはどこのお寺?
百万塔陀羅尼は「無垢浄光大陀羅尼経(むくじょうこうだいだらにきょう)」という経典の一部と、木製の三重小塔から成り立ちます。
文字通り100万枚の印刷経文が100万基の小塔にそれぞれ納められました。
小塔は20㎝ほどの高さのものが標準で本体にはヒノキ、頂点の「相輪(そうりん)」という突起部分にはサクラ・サカキ・センダンなどの木材が使われています。
完成した百万塔陀羅尼は前述の通り10の寺に10万基ずつ奉納され、この寺院を「十官寺」といいます。
そこに名を連ねる寺院は以下の通りです。
・東大寺
・興福寺
・薬師寺
・西大寺
・元興寺
・法隆寺
・大安寺
・四天王寺
・弘福寺
・崇福寺
上記の弘福寺と崇福寺以外は今もあるお寺ですが、現存する百万塔陀羅尼は法隆寺に伝来する4万6000基弱でその多くが各地の博物館や個人に分蔵されています。
百万塔陀羅尼の内容と印刷方法は?
陀羅尼(だらに)とは仏教における呪文のことで、比較的長い文章のものを指します。
百万塔に納められた無垢浄光大陀羅尼経にはあらゆる魔を寄せ付けない力があると説かれ、この製作・奉納は万民の安寧を願った国家事業として作成されたと考えられます。
実際には6種構成の経典ですが、現存する百万塔からは内4種のみが確認されています。
しかしこれらの印刷方法について、まだ詳細は解明されていません。
大きくは版木に文字を彫り出す木版と、金属版を用いる方法の2つの説があります。
仮に木版だったとすると大量の印刷で摩耗することが考えられ、いくつも同じ版を用意したことが想定されるでしょう。
そのため金属版の可能性も指摘されていますが、あるいはいずれかの素材でスタンプのようなものを作ったとする考えもあり、今後の分析が待たれています。
まとめ:百万塔陀羅尼を所蔵しているのはどこ?
以上のことから、百万塔陀羅尼は「製作年代が確実な世界最古の印刷物」と定義づけることができます。
陀羅尼および塔本体は各地の博物館・図書館などに所蔵され、実物を見ることができるものもありますので、そのいくつかをご紹介しましょう。
お立ち寄りの際にはぜひ、こうした貴重な印刷文化の歴史にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。